『メメント』は、今では『インセプション』や『インターステラー』などで知られる名監督クリストファー・ノーランの最初の作品として2001年に公開された映画です。主人公は10分ほどの記憶しか覚えていられないという「前向性健忘症」を患うレナードという男性で、作品は時系列が逆行して進んでいきます。これらの演出により、本作は難解な作品として知られています。鑑賞後はさまざまな疑問を抱く人も多く、この記事では、白黒描写やタトゥーの謎について考察していき、作品の魅力を掘り下げていきます。
メメントのあらすじ
ガイ・ピアース演じる主人公「レナード・シェルビー」は、家に侵入した強盗に突き飛ばされて頭を強打したことにより前向性健忘症を患いました。これにより彼は新しい記憶を10分しか保持することができません。最後に残っている記憶は、その強盗に妻が殺されるという悲惨な事件です。
レナードは事件の真相を追い求めるため、ポラロイドの写真やメモ、体のタトゥーを頼りに、記憶の断片を繋ぎ合わせて犯人を追いかけるというサスペンス作品です。
メメントの白黒描写について
作品を複雑にしている1つの要素として、カラーパートとモノクロパートが目まぐるしく入れ替わって進行していくことが挙げられます。この2種類の場面は、それぞれ異なる時間軸にあります。モノクロシーンでは、通常の時間の流れとなっていますが、カラーシーンは時間を遡って描かれています。そして、それぞれの時間軸が進んで行った結果、物語終盤で重なり合うという構造になっています。
前向性健忘症を擬似体験できる演出
なぜこのような演出をしているのでしょうか?それは、レナードが患う「前向性健忘症」が関係しています。レナードは出会った人のことも、話した会話の内容も、新しく覚えたことは全て10分以内に忘れてしまいます。数分刻みにシーンが切り替わる演出は、我々にも同様の体感を味わえるように作られた仕掛けということです。
体に刻んだタトゥーについて
レナードは犯人の手がかりをタトゥーにして自身の体に刻んできました。ここでは、タトゥーの内容について考えていきます。
サミーを忘れるな
レナードは自分の左手の甲に「サミー・ジャンキスを忘れるな」というタトゥーを彫っています。サミーとは、レナードが保険の調査員だった頃に顧客として出会った男性です。そして、彼もまたレナードと同様に事故の後遺症として記憶障害を患っていました。過去の自分は彼とのどんな出来事を戒めとして未来の自分へ刻んだのでしょうか?
妻との出来事
サミーには妻がいて、インシュリンの注射を打ってあげることが事故前からの習慣でした。記憶障害になったあともこの複雑な行動はスムーズに行うことができ、レナードはサミーの後遺症が肉体的なものではなく精神的なものから来るものだと断定します。その結果、サミーの妻は「精神的な問題なら、昔の夫に戻れる」と考え、インシュリンの注射を何度も打たせるという賭けをします。愛する妻の命が掛かっている状況であれば、おかしいことに気づくのではないか。結果的に願いは叶わず、サミーの妻は死んでしまいます。
レナードのタトゥーは、サミーとその妻の失敗を忘れないためだったのです。
ジョン・G
レナードは「ジョン・G」と名乗る男を手がかりに、犯人を探していきます。そしてたどり着いたのが、「ジミー」という麻薬を買うためにやってきた売人です。テディと名乗る刑事の手引きにより、レナードは首を絞めて彼を殺し、とうとう復讐を果たすことに成功しました。しかし、「ジョン・G」の存在は、実際にはレナード自身の創造物であることが判明します。
ジョン・Gの正体
テディはちょうどこの時、麻薬の売人であるジミーを調査していて、彼を殺すためにレナードを利用していたのです。ここで、テディの口から真実が明かされます。実は、過去にレナードは犯人を探し出して復讐していました。そして、暴漢に襲われた時、妻は生きていて、本当の死因は何度もインスリンを打ったこと。そう、サミーとはレナード自身のことだったのです。彼は妻を殺した罪悪感をサミーに転嫁し、ジョン・Gという架空の犯人を復讐後も創り出し続け、それを糧として生き続けていたのです。
電話に出るな
このメモは、レナードが特定の人物に対して警戒心を抱いていることを示していますが、おそらくテディのことを指していると推測できます。上記のテディとの一連の関係性を考慮すると、レナードの自己防衛手段として、何度も同じ過ちを繰り返さないためのものだったのでしょう。物語の最後には、テディを新たな「ジョン・G」とするためのメモを残し、復讐のループがまたスタートします。
まとめ
レナードが復讐に成功していることをタトゥーに残さない理由は、「ジョン・G」を永遠に追い続けることで、未来の自分へ生きる意味を創り出すためでした。
終盤の畳み掛けるように真実が明らかになって行く場面は、見どころの一つです。おそらく意図的に不明瞭な部分も残している作品で、矛盾を感じるシーンもあるかもしれませんが、それも含めて正解のないレナードの人物像を想像して作品を楽しんでください。